「ナガサキの郵便配達」とは、長崎で被爆した16歳の郵便配達の少年、
谷口稜曄氏の体験をもとに書かれたドキュメンタリー小説です。
1978年、初めて長崎を訪れた英国人作家ピーター・タウンゼントは、二人の被爆者に会ったその日に、あまりにも感動的で衝撃的な話を聞き、長崎の苦悶の一端に触れた体験から、長崎の物語を書こうと思いたちました。1982年から本格的な調査を始め、被爆者の一人である谷口稜曄氏と出逢い、自宅に通い詰め、1ヶ月もの間、来る日も来る日も膝を交えて深夜まで話し合いを繰り返しました。そして、さらに多くの被爆者達とのインタビューを重ね、彼らと一緒の時間を過ごし、長崎の街の空気を吸い、何十キロメートルも歩き回り、被爆者のみならず医師、科学者、社会学者、宗教指導者、さらに軍関係者など数々の貴重な証言を集め、1984年「The Postman of Nagasaki」のタイトルでイギリスとフランスで出版され、両国の新聞雑誌などで広く書評に取り上げられました。原爆とその後遺症がいかに恐ろしいかと言うことを初めて伝えたこの本は、一被爆少年の悲劇とその後の苦しい闘いを、原爆の恐ろしさと犠牲者の痛みが直に伝わってくるような雄勁な筆致で描き出した感動的なドキュメンタリー物語であり、と同時にその叙情詩的表現が各誌で絶賛されました。
1985年発行 早川書房刊
被爆直後の谷口稜曄氏
ピータータウンゼントさんが谷口さんに送ったサイン入りの「ナガサキの郵便配達」英語版
物語を著したのは、イギリス空軍の英雄であり、
その後、マーガレット王女との世紀の悲恋が映画「ローマの休日」の
モデルとなったと言われるピーター・タウンゼントです。
著者ピーター・タウンゼントは第2次世界戦争時に英空軍の戦闘機パイロットとして数々の武勲に輝き「英国の戦い」の英雄と称されました。退役後は、ジョージ6世の侍従武官、ブリュッセル大使館付空軍武官を勤め、その間にマーガレット王女との恋で、世界的に有名になりました。もともとビルマ(現ミヤンマー)で生まれたタウンゼントは、東洋に格別の思いを抱き、1957年に初めて日本を訪問したときから、イギリスとの伝統的な結びつきに深い印象を受けました。退役後、フリーランスのジャーナリスト、現代史作家となり、1978年、戦争の犠牲となった子供達の本を書くためにイギリスを出て世界を旅し、当然のごとく広島と長崎を訪れました。両市で、少年少女時代に原子爆弾を経験した人々が語ってくれた話に感動し、いつかはこのテーマで物語を書こうと決心しました。日本では、1985年、戦後40年を記念して早川書房から、フランス語版が翻訳されて出版されました。そして、その抜粋が三省堂版高校の国語の教科書に18ページにわたって取り上げられたにも関わらず、入手困難となりました。20年後の2005年に、よも出版代表の横川節子さんが発起人となり、市民有志による「復刊する会」が創設され復刊を果たしましたが一般流通に乗ることはなく絶版されていましたが、2018年に一般社団法人 ナガサキの郵便配達制作プロジェクトにより再版されました。
ピーター・タウンゼント氏
ローマの休日